佐賀市出身の小児科医で東京大大学院准教授(国際保健計画学)の黒岩宙司氏(51)が、青年海外協力隊員として派遣されたアフリカ・マラウイ共和国での医療活動や、ラオスで世界保健機関(WHO)のポリオ(小児まひ)根絶計画に携わった経験をつづった「小児科医、海を渡る‐僕が世界の最貧国で見たこと」(いそっぷ社)を出版した。貧困国での国際援助の実情を黒岩氏に聞いた。 (聞き手・江藤俊哉)
■「金もうけ」と「国益」と 貧困生む真の原因考えて
‐マラウイは国内総生産(GDP)が日本の1%にも満たない最貧国の1つ。著書では2年間勤務した小児科病棟を「地獄」と表現している。それほど貧しいのか。
病棟では1日3‐4人、毎月約100人の子どもがマラリアなどで死んでいきました。彼らのほとんどは栄養失調で、感染症で顔に穴が開いている子も多い。清潔な食べ物や飲み物すら行き渡らない中で、コーラ飲料は高価だが「清潔な飲料水」として田舎町でも売られています。
マラウイは内戦中の隣国から難民を受け入れていましたが、キャンプには援助物資があふれ、そこの子どもは丸まると太っていました。物資は横流しされて市場に出回り、農業など国内産業を圧迫していました。
欧米の先進国は確かに国策として貧困国に手厚い物的人的援助を展開しています。だが一方でコーラ飲料に代表される「金もうけ」の仕組みを世界の隅々まで行き渡らせ、貧困を生み出す構造を確立しています。
‐ラオスでのポリオ根絶活動もさまざまな矛盾を感じさせる。
ポリオ根絶そのものは意義ある活動です。だがその達成にはその国の保健システムを総動員し、集中的に実施しなければならない。他の疾患が後回しになる上、従来の保健システムを疲弊させてしまう弊害があります。
WHOはポリオの後、麻疹(ましん)(はしか)根絶活動を始めました。経口接種のポリオと違い、注射が必要な麻疹は注射針の処理など解決できない問題をその国に残します。背景には、世界的な製薬企業の思惑などが絡んでいるようです。
国際援助は国益がせめぎ合う場所です。ポリオ根絶には日本も主導的な役割を果たしましたが、携わっていた官僚たちの目的は「根絶宣言を日本で行うこと」。それは実現しましたが、式典では現場で頑張った医師らが壇上に上げられることはありませんでした。
‐日本の「国際援助」の問題点は何か。
青年海外協力隊でもWHOでも現場で活躍する日本人は高い評価を受けています。ただ、それを国としてどう生かすかを議論し、政策に反映させることをしない。現場から優れた問題提起があっても、うやむやで終わってしまうのです。したたかな欧米にただ追従するばかりです。
読者にはただ「かわいそう」で終わるのではなく、何が貧困を生み出すのか、根本的な原因を考えてほしい。
私も医療の現場を離れて長くなりました。個人的には今後は九州の離島で地域医療に携わろうかなと思っています。
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福岡大医学部卒。福岡市や大分県別府市で病院勤務を経て1989年、青年海外協力隊員として2年間、マラウイに派遣。帰国後、94年からラオスでWHOのポリオ根絶事業に参加。2000年の西太平洋地域ポリオ根絶宣言に寄与した。02年から東京大大学院准教授。
=2008/08/27付 西日本新聞朝刊=